2012-02-26

『働きながら、社会を変える。』 慎泰俊


本書はプライベイトエクイティファンドでバリバリに働く金融マン(26歳)が、パートタイムで子どもの貧困に社会貢献し、その実態と分析、行動を記したものである。

著者の意図から外れるかもしれないが、この本を読んでまず思ったことは、私の友人の多くは既に子どもを持ち、また私のことを知らずにこのブログを読んでくださるであろう同世代の方もおそらく多くが子どもをお持ちになってみえるだろう。その方々に声を大にしていいたいのは、
「自分の子どもには可能な限りの愛情を注いであげてほしい」
ということだ。具体的に何がそれなんだといわれると私には子どもがいないのでわからないが、少なくとも子どものことを「しっかりと見ていてあげる」ということではないかと思う。それは何も経済的に最大限の支出を子どもに向けろとか(以下に書くが、決して日本の子ども向け支出は高くない)、そういう類いのことでは決してない。本屋さんでパラパラ立ち読みでもいい、子どもを持っている人は本の数ページ読めば私がいいたいことは理解していただけると思う。

本書は3部構成になっていて1部、2部では児童養護施設の実態、そこにいる子どもたちの事情、生い立ち、また児童養護施設の運営について自信の体験(実際に住み込みをされた)を元に分析されている。3部ではサラリーマンでありながら、いやサラリーマンであればこそできる社会貢献の方法について書かれている。著者の意図としては1、2部で実態を知った後の行動として3部の内容を実践してもらいたいというのが本音であろうが、私自身どのような行動をしたらよいのかわからない状態なので今回はその部分は割愛し、児童養護施設の実態から自分が親になったとき、また現在親という立場である人たちに、ごく普通の家庭生活が送られない子どもたちがどれだけ悲惨な状況におかれているかを知っていただきたい。であるからして、既に親の立場にある人からすれば「何を当たり前のことを」と思われるかもしれないが、その当たり前が通用しない子どもたちがいるが現実なのである。

不幸にも親が病死した等の不可抗力的な理由で入所したにせよ、DVやネグレクトによって児童相談所から入所させられた子どもにせよ、ここにいる子どもたちは「捨てられた」という感覚が非常に強く、また大人でも見られるように自分の受けた暴力は他人にもしてしまうという悲惨な状況が繰り広げられている世界が児童養護施設だ。本来の家庭で生まれ育てば子ども2〜3人に両親で育てられるはずなのに、児童養護施設はその規模にもよるようだが収容人数によって職員1人あたりの子どもの人数が決められており、逆算で職員数が決められる。最近ではカウンセリング専門職(非常勤のことが多いようである)等もつけられるようではあるが、それを加えたところで子ども1人に職員1名ということは不可能である。それ以上に様々な事情を抱えた子どもたちが施設にはいるわけだから不登校、暴力など、自分の子どもでも手を焼きそうなことが頻繁に起り、それを1人の職員が何人分も対処しなくてはならない、また24時間態勢でぎりぎりの人数で回していることから職員の苦労も計り知れない。はたして自分がこの職業を選んでいたとして、いくら自ら選択した職業だとしても、では今もこの職を継続しているかと考えるとおそらく応えはNo.だろう。それほどに施設の状況は困難極まりないものだというのは本書を全て読み終わらなくても十分に伝わる。

また更に驚くのは経済大国を謳う日本の貧困率の高さだ。出所は別所になるが、ある調査によれば母子世帯の人口構成比は全体の4.1%で貧困率は66.0%にもなる。また、OECDの調査による子ども向け支出の対GDP比はワースト3に入り、子どもの貧困率は15%弱にものぼる。これが子どもの「教育」向け支出の対GDP比で行くとOECD調査ではワースト1となる。更に、同じくOECD調査であるが、16歳未満の子どもを持つ母親の就業率は50%強にしか満たさず、男女の就業率格差の比較では日本はワースト4である。
これだけを見れば、解決の糸口は女性の就業率を上げることと、子ども向け支出を高めることにありそうだ。

それにしても大学全入時代といわれて久しく、子どもは塾に習い事にと大人の残業並みに忙しい夜を過ごしていると思っていたらとんでもない大間違いであって、対GDP比における子ども向け支出がこれほどまで小さいとは意外であった。

ではこのような状況下で働くサラリーマンの私たちは一体何ができるのか。著者の体験からもわかるが、場当たり的なボランティアでたまに施設に顔を出す程度の行動は逆に子どもたちから「もう来ないんでしょ」とショックを与え、日々奔走する職員からは実態をわかっていない者のポッとでの手伝いはあまりありがたい話ではないようだ。
そこで著者らが考えたのがパートタイムでもできる社会貢献で、かつ自分の本業を活かせ、また本業にも活かせられる社会貢献の方法である。著者は金融マンであることから資金面でのパートタイムでの児童養護施設への援助プログラムを実践しているが、社会貢献のために本業を疎かにする者は結局本業もまともにできないと考えられるので、本業、本業外ともに有効な時間を過ごせるような社会貢献のあり方を模索している。また、既にいくつかパートタイムでの社会貢献を実施しているNPOなどもいくつかあるようであり本書でも紹介されている。

自分で何ができるのか、またそもそもするのかしないのかはよく考えて行動しないと長続きしないものであるので、現在の自分の状況と立場を今一度よく考え直す機会にはなると思う。

なお、著者が代表理事を務めるNPO法人、Living in PeaceのURLは以下である。参加者のプロフィールを見ると、どう考えても自分よりも多忙を極めるであろう人たちが集まっているのに驚かされた。

http://www.living-in-peace.org

2012-02-19

数学の天才、コンピュータ技術者、そして営業マン 池田敏雄


海外ドラマDVDはどうしても連続してみてしまってきりがない。ついつい夜更かしをしてしまうので体にはよろしくない。

図書館に行ったらちょうど以前NHKで放送されていた『プロジェクトX』のDVDがあったので2枚借りてみた。

1枚はテレビの放映でも観たし、それをビデオにとって何回も繰り返しみた富士通のFACOM開発責任者であった「池田敏雄」の話だ。

数学の天才で富士通に入社。今でこそ富士通といえばパソコンを買う時に候補にあがる有名企業だが、戦後当時は唯の電話機器メーカーだったようだ。業界弱小、といったら今の富士通が怒るかもしれないが、お世辞にも優良企業ではなかったようだ(もちろん、戦後の混乱期にはどの会社とて大変な時期だったはずだ)。その会社内でも特に異彩を放ったのが池田敏雄である。家で夜中まで、というよりも会社に出るタイミングを逃すほど設計図面にのめり込むあたり、尋常な集中力ではない。数学的、技術的に優れていただけではなく、文学、クラシック、囲碁と才能は多彩であったようだ。

文字通り命をかけたFACOMの出荷1週間前にくも膜下出血でこの世を去った男が講演で語ったという次の言葉は、何も電子計算機屋に限った話ではないと思う。

電子計算機屋というのは自分の進歩を止めた瞬間に必ず潰されてしまうんですね。ですから人間は進歩していない限り、本当の生きているという実在感と幸福感はないはずなんです。

何もコンピュータエンジニアにだけいえた話ではなく、営業マンだって銀行員だって、人間誰しも進歩を止めた瞬間に、技術戦争まっただか中だったコンピュータエンジニアのように潰されることこそないにせよ、少なくとも実在感や幸福感はやはりないような気がする。何でもいい、今日はこれができるようになった、これができた、というような小さな達成感を少しずつ積み上げていきたいと思った。

なお、池田敏雄氏についてはこちらの本にも詳しいが、残念ながら絶版である。この番組をみたのが既に10年近く前になると思うが、当時で既に絶版であり、アマゾンのマーケットプレイスで購入したのを記憶している。




2012-02-10

榊原英資氏 講演備忘録 8.日本は成熟国家である・・・悲観論はやめる

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8.日本は成熟国家である・・・悲観論はやめる

日本は悲観論が多い。
今後、日本の成長の4〜5%はありえない。
企業は高成長する。なぜならば海外に出るから。
国内市場は縮小。もし成長したらそれはバブル。
1〜2%の成長で十分。
成熟社会、経済への転換。環境、安全、健康。
日本は森が60%、雨は欧州の3倍ある。
日本は森を維持した。
海洋には36,360種類とも言われる生物が棲息している。
安全、それは歴史的権威である。明治維新までに3回しか戦争を経験していない。
異民族に征服されたことがない。
ほとんど戦争、内乱がなかった。これは世界的にない。
明治時代、欧州の女性が馬で3ヶ月旅行したが、安全だったと言っている。
夜、女性が1人で歩ける。
高年齢者の肥満が少ない。3%。アメリカは31%。

ここまでそろった成熟国家はない。
寿司、日本料理、日本の食材は世界的ブーム。
NYでも高級料理店は日本の食材を使う。
築地は多種多様で世界にないマーケット。活け締めの技術。チリにも魚のマーケットがあるが、活け締めがないため、臭い。
食文化、食の技術がある。
成熟国家として自信を持つ。
アメリカでは日本の再評価が始まっている。
クルーグマン、今のアメリカは90年代の日本より悪い。失われた10年というが、それもよくやっていた。
90年代の後半の金融危機、メガバンクの登場で金融システムを作った。

決して悲観する必要はない。
ドル円は上げはするが、基本的に70円台〜90円台。
グローバリザーションをやれば正常業もよみがえる。
製造業がどう克服するか。そろそろチャレンジしなくてはいけない。
海外で日本は成熟国家として評価されている。
我々が自信をもってモット世界に発信する。
それをやれば株も戻る。
円高+海外製造=空洞化はしない。アメリカ、韓国は空洞化していない。

以上で終了です。


榊原英資氏 講演備忘録 6.過去の円高と現在の円高

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6.過去の円高と現在の円高

80〜90年代の円高は3倍になった。
アメリカはドル安を懸念していたので当時は協調介入ができ、円高の期間は短期ですんだ。
現在アメリカはドル安を容認、欧州もユーロ安を容認している。
日本の介入は欧米には強い不満がある。
円高是正は介入ではできない。
以前の3倍の円高は調整が利かなかった。

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榊原英資氏 講演備忘録 7.円高をどうとらえるか・・・今後も円高は続く

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7.円高をどうとらえるか・・・今後も円高は続く

世界経済は斑模様。

一般的マスコミ報道されるものとして、今年は年末にかけて円安展望が多い。
そのシナリオは、
貿易収支の赤字
消費税の引き上げがはっきりしない。鳩山、小沢両氏は反増税。野田総理の消費増税を潰して解散総選挙の可能性が大きい。
ここに国債暴落が重なり円安。
為替レートは相対価値である。

円安予想はとらない。
アジア通貨が対ユーロで強い。
元も管理下にあるものの徐々に切り上がっている。
シンガポールもあがっている。
日本も東アジアの一員なので円高トレンドは考えておくべき。

今は緩やかな円高。
それにより企業はグローバルに動きやすい。
製造業の課題、中国、インドで売らなくてはいけない。
サムソンやL/Gはそれをやっている。日本はできていない。中国、インドでシェアを上げること。
日本はそれができていない。中国、インドなどのアジアでシェアをあげること。
それには価格が安くないとできない。質がいいのはわかっているが、日本製は高い。ハイクオリティにこだわり過ぎでそれを捨てること。中国、インドにあわせた質の妥協が必要。

円高をどう利用するか。
これは個人投資も同じである。グローバルに相場をみること。
やはり相対的に欧州は悪い。
アメリカは現状は強い。80円を超えるかわからないが、そうは思わない。
小売りも伸びるだろうがバランスシートが悪い。
3〜5年スパンで順調にいくかは疑問。

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榊原英資氏 講演備忘録 5.アジア経済の一体化

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5.アジア経済の一体化

東アジア、日本、中国、韓国、ASEANには制度的メカニズムはない。
欧州は財政以外がほぼ全て統合している。
制度はないが、日中の域内貿易は60%、EU65%。
日中の経済は一体化している。中国と関係のないところはない。

アジアを制度化するのは難しい。民族、宗教が複雑。
日本の最大輸出国は中国。20%、アメリカへは15%。この流れは加速するだろう。

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榊原英資氏 講演備忘録 4.中国、インドの将来・・・欧米からアジアへのシフト

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4.中国、インドの将来・・・欧米からアジアへのシフト

経済の主役が欧米からアジアへ、特に中国、インドへシフトしていく。

欧米からアジアへの移行、現在はそのプロセスにある。
リオリエント:東洋へ、(動詞で)方向付ける。

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榊原英資氏 講演備忘録 2.アメリカ経済の現状

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2.アメリカ経済の現状

一方で、アメリカの回復はかなり良化が進んでいる。先日発表された雇用統計、失業率も良い数字が出た。
1995〜2007年にかけて平均3%のGDP成長率。その間日本は約1%。
100兆ドルの金融資産がバブルだったが、2007〜2008年にかけて崩壊。
その間のバブルで株、不動産ともに3倍になった。
リーマンショックで住宅価格が低下。CDS、CDOが焦げ付き、5台投資銀行のうち、3つが破綻。
現在、ゴールドマンサックスとモルガンスタンレーが残っているが、ディレバレッジへ方向転換している。
迅速な公的資金投入があったため、2010、2011年は校長を維持。
但し、バランスシートはまだ悪い状態。消費は増加するか。消費者の信頼感は戻るか。

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榊原英資氏 講演備忘録 1.欧州危機の現状

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1.欧州危機の現状

欧州危機は当面は落ち着くだろう。ただし、終了したわけではない。
ポルトガルの10年国債は14.8%(時点は私の不記録)。これは破綻に等しい。
ギリシャ→ポルトガル→スペイン。南欧全体が財政危機である。
ギリシャの銀行が70%の債務削減をのむかどうか。これによって欧州危機は深まるかもしれず、解決には向かっていない。
S&Pはフランスも格下げしており、またドイツも国債未達など、良化の気配がない。


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榊原英資氏 講演備忘録 3.中国、インドの現状と過去

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3.中国、インドの現状と過去

中国の昨年までのGDP成長率は10%、インド7%。
いずれ中国がアメリカのGDPを抜くだろう。2020〜2030年頃だろうか。
現在インドのGDPは中国、日本の1/3。インドがGDP大国になるには時間がかかる。
2050年には①中国、②アメリカ、③インド、④日本とのゴールドマンサックスの予想がある。
今後10年で、中国とインドの人口は逆転するだろう。
2050年の人口予想は中国12.9億人、インド16.9億人。
10年後にはインドが中国の成長率を抜く。
中国は一人っ子政策で老齢化が進む。
インドの人口構成は非常に若い。現在25歳以下が53%を占めている。
長期的な歴史をみると、中国かインドが概ねGDPで1位であった。
「1820年」の推計では、GDPの世界比率が
中国、29%
インド、16%
イギリス、5%
中国、インドの没落は19世紀半ばからで植民地化によるものである。
アジアで植民地化しなかったのは日本とタイ。但し、タイはイギリスの指導を受けている。
日本は地理的に遠い、明治維新以後の富国強兵、日露戦争の勝利により脅威をもたれていた。
第二次大戦前にアジアの没落があった。

第二次大戦後、日本、韓国、シンガポール、ASEANの成長。特に1970〜1980年代。
中国、インドは社会主義により成長が遅れた。
中国は1970年代終わりに市場主義化し、80年代に自由化を開始。
インドも1991年に市場経済化。輸入割当の撤廃、関税の低減を開始。
2050年にかけて、中国の成長率は4%まで低下するだろう。
インドは7〜8%を維持し、更なる上昇もありえる。

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榊原英資氏 講演備忘録 目次

平成24年2月4日(土)、東京ドームシティホールで行われた某ネット証券会社主催の「お客様感謝デー」にて基調講演されたものを、私なりの解釈でメモしたものであり、講演者の趣旨を正当、または反論するものではない。あくまでも私自身の備忘録であり、内容が相違する点があるかもしれないが、一切の責は筆者である私に帰するものである。


なお、この備忘録をブログという公衆の面前に出すうえで、講演者の言葉をそのまま表記したのでは記録としては使用しにくいので、私自身にて以下のように再構成した。


1.欧州危機の現状




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