2010-06-13

孤高のメス


臓器移植法が成立前の日本で脳死患者から肝臓を移植することを映画たこの映画。その時代に本当にこのようなことが行われていたら社会問題としてかなりセンセーショナルな取扱を受けたと思うが、法整備がすすんだ現代においては先端の医療として普通に行われることだろう。

この映画では脳死した息子からの臓器提供を強く願った母親の意思により、移植手術が可能となったが、ここに本人のはっきりとした生前の意思表示は全くなかった。その状態で移植手術をすべきであったのだろうか。臓器移植法がなかったこの時代はそれでよかったのだろうが、現代ではそれはどうだろう。今年の7月には本人の意思表示がなくても遺族の了解で移植が可能となるとのことであるが、私個人の意見としては、やはり本人の生前の意思は尊重して欲しい。思考をつかさどることができない状態になっているからこそ、そして思考をつかさどる可能性が全くない状態ななったからこそ、遺族の主張だけで自らの体の一部を他人へ持っていかれることには抵抗がある。

その上で、私は臓器提供意思カードで臓器提供の意思表示をしている。人が死んだときに、最後を法律にのっとって見送るのは遺族の義務であるが、そこに必要以上に他人の主張をはさんで欲しくない。可能な限り、自分の最期は自分で決めたいというのが私の意見だ。

そんなことを強く感じた私はカードの記載内容を先ほど確認して、財布の中にしまった。

2010-06-08

『排出権商人』 黒木亮


京都議定書締結の後よく耳にするようになった「排出権」。これが取引できるということだが、一体排出権とはなんなのか。簡単に言えば目標設定をクリアできない場合、余裕がある国からその分を購入することであるが、それはどのような方法で行われるのか。

そんな疑問には小説であるこの本が解決してくれます。

国連での排出権認定や、交渉方法、具体的な排出権のビジネスの内容について、余すことなく書かれている。もちろん小説であるので、ある程度キャプションは加えられていると思われるが、作者のこれまでの作品から決して大げさではないだろう。

もう1点、貿易担当の仕事をしている私からは、中国人とのネゴシエーションの下りがかなり面白かった。私自身は中国へいったことはないが、取引先等から聞く中国の様子というのがよくわかり、読んでいて楽しかった。

排出権商人 黒木亮

2010-06-06

告白

映画、『告白』を観に行ってきました。この作品は珍しく先に小説を読んだ。この手の小説は読んだことはないが、会社の他部署の上司に進められ読んでみた。様々な登場人物が場面場面で一人称で話を進めるのがこの小説の特徴であるが、それがそのまま映画になっている。そして、過去の回想が多いこの話の中で映画もそのとおりになっており、森口先生扮する松たか子が朗読に近いお芝居をあきさせることなくみせてくれている。

食うか食われるかの経済小説を中心に読んできて私にとって、このお話の目的はよくわからない。学級崩壊した学校が描きたかったのか、家族のバランスが偏っている家庭が描きたかったのか。人間関係が下手糞な中学生が描きたかったのか。この3つに絞られるのであろうが、結論はでていない。もしかしたらHIVに感染した人間を差別してはいけないと言いたかったのかもしれない。

自分に子どもはいないが、友人の子どもを見ていると巷言われている学級崩壊などというものは全く想像がつかない。子どもというものはある程度わがままだし、自分が王子様と少なからず思っているものだ。一方で、自分が子どもを持ったときに、そんな素直な子どもに育たずこの映画に登場するような社会になじめない子どもになったらどうしようという恐怖もまたある。子どもは何に満足し、どうすれば社会になじむ子どもになるのだろうか。

子ども手当てで少子化対策を考えるのも大事だとは思うが、それよりも、自分の仕事も持ち、自分の世界ももち、それでも子どもにどう接すればいいのかを考えることの方が、より少子化対策になるのではないかと考えた映画だった。

2010-06-02

投げる精密機械は考え方も精密機械

ロッテを最後に引退した小宮山悟の本を読んだ。子どもの頃から英才教育を受けたわけでもなく、推薦で大学に入ったわけでもない小宮山氏はいわゆる野球エリートでなかった。しかも2浪して早稲田大学に入ったためプロ入りは大学卒で24歳。遅咲きのプロ生活をどのようにして42歳まで続けられたのか。

常に「なぜ?」を考え、行動すること。そして彼は勉強熱心であり、その時そのときに応じた学習を行っている。

メジャーリーグから帰ってきて在日球団からオファーがなかったときは大学の研究室に通って学んでいたらしい。また、現役に復帰してから大学院の入学試験もパスしている。ロッテに戻ってからは敗戦処理的な役割もあったが、それもこなしていく。その時期求められることと、やれることを忠実にやっているだけという感じが本からは伝わるが、プライドが邪魔せずそれができるのは浪人で大学に入学するという学習の癖をつけていることと早稲田大学野球部で厳しい状況に身を置いた経験からだろうか。

別に新聞か何かで読んだが、彼のひじは既にぼろぼろの域に達していて、医者が「ホントに痛くないのか?」と疑問に思う状態だったらしい。学生の頃バッティングピッチャーとして何百球と投げていたときに身に着けた痛くしない投げ方を覚えたといっているが、その無意識な臨機応変さはサラリーマンも大事なことだと思う。

成功をつかむ24時間の使い方
小宮山悟

2010-06-01

グリーンゾーン

ハートロッカーに続く、アメリカのイラン戦争をテーマにした作品。大量破壊兵器の発見、壊滅に動く米兵の活動が、実はCIAや国防総省の覇権争いに巻き込まれていく。

人間は世界平和をうたいながら、実は自分の地位も確立していくもの。それはそれでよいが、その地位確立のために、最前線で働く兵士の命の犠牲もいとわないところが、いかにもアメリカトップらしいやり方のように思う(失礼っ!)。また、そのためにマスコミを利用し、利用されるマスコミもいる。マスコミの情報ソースを確認しないのは日本の平和ボケだけかと思っていたが、意外にアメリカでもあるのか。

それにしても、アメリカはイラクで一体何がやりたくて、最終的にどうしたかったのか。改めてわからなかった。

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