2011-10-17

『下町ロケット』池井戸潤


銀行員の視点から読むと耳が痛い点がたたある。銀行は雨の日に傘を取り上げ、晴れの日に傘を差し出すとはよく言われることであるが、書中でもそういった場面は登場する。同業である私も、知らぬ間にそういうことになっていないか。または雨の日に傘を貸せなくても、少しでも雨を凌ぐ方法を考えているか。自問させられた。

また、大企業と中小企業の取引関係についてはその厳しさをまざまざと見せつけられたが、これには一長一短あるだろう。中小企業側からみれば「何もそこまで」と思うようなテストも、大企業からすればエンドユーザへ納入するのだから不良品があってはならない。不良部分は他社調達の部品でしたのでは済まされない。そうであれば、テストの厳しさはやむを得ない点もあるだろう。

本書では製品供給か特許売却かで揺れ動く中での場面で上記内容が出てくるため、中小企業叩きにみえなくもないが、そういう捉え方だけでは不足していると思う。

本書の最大の醍醐味はそういった細かいところではなく、中小企業が社員一丸となって大きな契約に結びつけるところでの団結力であり、また中小企業代表者の決断力を描いている点であると思う。私の勤務する会社もそれなりの人数的規模で営業拠点も多数存在するが、そこのトップは実態は中間管理職であるとはいえ、その営業拠点ではトップである。その場その場のトップは否応無しにいつも決断を迫られ、迫られた決断を下したにも関わらずさらに上からの方向性の違った決定に不本意に従わなくてはならない時も多々ある。そういう時も腐らず気がついたら同じ方向に走っていたと言ってしまえばただの風見鶏になってしまうが、それをしても風見鶏になってしまったと思わせないだけの魅力が上に立つものには必要なのだろう。


下町ロケット 池井戸潤 小学館(第145回直木賞受賞作)

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